イヤリングといえば、耳たぶに挟んで装着するもの。
時には落としてしまうものだし、大きくて重いイヤリングは痛みを伴う・・
そんな常識を覆す画期的なイヤリングが、1940年代にある女性によって発明されました。
「ウィングバック」と呼ばれる新しいイヤリングを考案したのは、アーティストでありデザイナーでもあったJudith McCann(ジュディス・マッキャン)。
彼女がイヤリングの改革を思い立ったきっかけは、友人からアクアマリンのルース(裸石:研磨されカットを施されたがまだ枠にセットされていない宝石)を贈られたことでした。
1946年のインタビューで、彼女はこう語っています。
“All I wanted at the time was a pair of earring backs that would hold – with no pain or nosedives under the table – two unset aquamarine stones as big as hickory nuts”
:「当時私が欲しかったのは、ヒッコリーの木の実ほどに大きなアクアマリンのルース2つを、痛みもなく、テーブルの下に急に落としてしまうこともなく着けていられるイヤリングの留め具でした」。
そうして彼女が生み出したのが「ウィングバック」という画期的なメカニズムでした。
イヤリングを耳たぶではなく、耳の軟骨のくぼみに装着して支えるのです。
耳のくぼみに載せる部分が、翼のような形状であることが「ウィングバック」の由来。
耳たぶではなく、耳の軟骨のくぼみに重さを均等に分散させるこの構造は、大きく重いイヤリングの着用に最適でした。
現代ではポピュラーなイヤーカフの先駆けのようなものですが、着用時の見た目がよりイヤリングに近いことが特徴です。
耳たぶの大きさや厚みを問わず、誰でも大ぶりイヤリングを楽しめますね。
McCannは、そんな自身の発明をジュエリー製造会社に持ち込んでサンプルを制作した後、記者であった夫に宣伝の協力を仰ぎました。
▲1950年、特許出願時に制作された「ウィングバック」の設計図。
間もなく、デビアスなどのファイン・ジュエラーから、コロなどのコスチュームジュエリーブランドまで、大手ジュエラーが彼女のデザインを採用するように。
彼女が考案したウィングバックは、ミッドセンチュリーのイヤリングデザインに大いに活気を与えたといえるでしょう。
1960年代には、McCannは自身のイヤリングラインを発表し、こちらも人気を博しました。
そんなウィングバックイヤリングですが、現存・流通しているピースが少なく、なかなか出会うことができません。
今回、いつもお世話になっているアメリカ・ツーソン在住のディーラーさんより一点のみ仕入れることができました。
幸運にも、ウィングバックイヤリング、ブレスレット、ネックレスのセットが揃いました。
こちらはなんと、"JAPAN"刻印入りの里帰り品。
日本に伝わったウィングバックイヤリングが海外に輸出され、時を経てまた日本に戻ってきたのですね。
このジュエリーセットが旅した行程に、思いを馳せてしまいます。